茨城県民94万人の「実効性ある避難計画」はない
東海第二原発の再稼働に関連して,東海村を含む14市町村に避難計画の策定が義務づけられている。2015年,茨城県が県計画を策定し,笠間市(2017年),常陸太田市(2018年),常陸大宮市(2018年),鉾田市(2020年),大子町(2020年)の5自治体が策定した。
県計画策定から7年がたとうとしているが,東海村(人口3.8万人)と,水戸市(27万人),日立市(17万人),ひたちなか市(15.5万人)などは策定の目処が立っていない。
もっとも,策定済みとした先の5自治体についても,県は,「引き続き『実効性ある避難計画』の策定に取り組んでいます」* と言っている。策定したが策定中である,というのである。
想定されるさまざまな問題をすべて捨象した空虚な計画であることは一目瞭然なのだが,それ以前に,策定したが策定中であると,平気で矛盾したことを書いている。それでもかまわない。県にとっては,とにかくも「実効性ある避難計画」を目指している,「実効性ある避難計画」は存在しうる,と示しつづけることが重要なのである。
県民は,これをどう受け取っているだろうか。
地元東海村では,原発再稼働を待ちわびる商工業者団体は,原発は安全になったのだから,「実効性ある避難計画」などとやかく言わずに早くつくれ,と主張する。
村が実施した「自分ごと化会議」の議論を見れば,村民の多くは,避難計画に関心がないか理解に乏しいと容易に想像できる。しかし,学べば,「実効性ある避難計画」の欺瞞性を見抜く村民は必ず増える。だから,自分ごと化会議の成果は,村民に学ぶ機会を提供すること,自ら学ぶという動機づけをつくることが喫緊の課題だということである。
学びの機会が与えられなければ,県広報鵜呑みの認識ができあがる。すなわち,「実効性ある避難計画」ができるというのならしっかりつくってほしい,である。現状では,この認識段階の村民が多数だろう。
少数派になるが,学びをつづけている村民は,「実効性ある避難計画」の欺瞞性を見抜いている。周辺住民には待機してもらって東海村民が先に避難するというルールは,だいたい避難の原則からしてあり得ない。避難弱者の避難が困難であることもはっきりしている。そもそも生活基盤とふるさとを失うことを計画化する避難計画など受け入れられない。少数の村民はこれを見抜いている。
大事故になれば避難しなければならなくなる30km圏の住民の多数は,自治体がまったく広報をしないので,計画の策定状況も問題の所在についても完全に無知のままである。30km圏外の多数の県民はさらに無関心のままであろう。
今年春,私は,避難計画の調査検討をするという市民の委員会に声をかけられ委員になった。委員会がこの会議で始めたのは,なんと策定済みの5避難計画を読むことであった。委員がそれぞれ分担して5計画を読み,会議で報告するというのである。
私は,こんな作業は意味がないと主張した。4回目の委員会でも再度,同じ意見を述べた。委員長はとうとう堪忍袋の緒が切れ,「読んでみないとわからないだろ」と私に怒鳴った。
読まないとわからないとは愚かしい。
原発避難計画については,研究者,メディア,市民団体などが検討を重ねその成果を発表している。それらは,すでに膨大に積み上がり,とくに94万人の「実効性ある避難計画」はあり得ないという共通認識はでき上がっている。東海第二原発の運転差し止めを言い渡した水戸地裁判決の大きな成果もある。市民の委員会としては,これらの成果に学ぶことから始めるべきなのである。
一方の5避難計画は,県自身が,「実効性」がないと認め策定中と言い直した「計画」である。市民委員会が5避難計画を読んで得る結論は,始めからわかっている。「実効性がない」である。県が「実効性がない」と認めたことを追認するだけの作業なのである。こんなことは,市民委員会がする作業ではない。
それでも,この委員会も次回は,日野行介著『原発再稼働』(集英社新書)を読んで,各自感想を述べるということになった。私が,委員会で紹介したことがきっかけだった。議題は,なにごとも行き当たりばったり感満載だし,次回委員会は感想を述べる会とは小学校のクラスでやるようなことみたいだが,それでも一応成果である。
日野さんの本を読めば,94万人の避難計画策定の闇がよくわかって,委員会は問題認識を深め,調査検討の方針が定まるかもしれない。私はこれで委員を降りることを伝えた。
* 茨城県「県地域防災計画・県広域避難計画について」,2022年9月1日
避難計画については,色々書いている。以下の論考など。
「94万人原発避難計画の問題 そもそも計画とは何か」,須和間の夕日,2021年8月1日
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