大量廃炉時代の原発立地地域の脱原発と地域再生を考える

『建築とまちづくり』2023年1月号に寄稿したものです。


大量廃炉時代に突入

原発開発が始まってから半世紀以上がたった。2020年末現在,世界で運転している原発は437基にのぼる。廃炉も増え193基になった(IAEA,2021年12月)。

世界の廃炉数の推移は図1の通りである。チェルノブイリ原発事故(1986年)の衝撃で,1980年代後半から90年代前半にかけて最初の大きなピークができた。2010年代前半に再び始まった増加は,福島第一原発事故(以後3.11)による。そして,最新のデータ2020年の廃炉は単年で16基となった。このグラフの続きを描けば,2020年代前半期にさらに大きな増加となり,3.11の衝撃で始まった廃炉の増加は,これまでにない大きなピークを描くことになるだろう。世界は明らかに廃炉時代に突入している。しかも,大量廃炉時代である。


図1 世界の閉鎖炉数の推移(IAEA, 2021年)


日本でも,3.11前の廃炉はわずか3基だったが,3.11後21基が廃炉になり,合計24基になった。他方で,再稼働済みと新規制基準に合格した原発は17基。事故時54基あったことを思い起こせば,日本も大量廃炉時代に入っている。

廃炉になった原発が運転した期間はどのぐらいだろうか。IAEAによれば平均29年である。閉鎖後数十年に及ぶ廃炉事業,さらに10万年という使用済み核燃料処分に要する時間に照らし合わせると,原発が電気をつくるために運転した期間はとても短かい。廃炉理由の多くは採算が取れない,そして設備トラブルである。


目指される原発の運転期間延長

3.11後,原発再稼働に向けた安全対策への投資が巨額になっている。たとえば,東電は柏崎刈羽原発6,7号機を中心に1兆1690億円,東北電力は女川2号機に5700億円を投資している。この巨額の投資を回収しようとしてか,原発事業者は,法定運転期間40年,例外的に認められる最長60年に対し,原子炉停止期間を除くよう要望。これが通産省案として政府に提示された。際限のない運転期間延長の道が敷かれようとしている。

運転期間の延長は,アメリカやイギリスなどにも規定がある。アメリカでは,最初の運転認可期間は40年だが,その後の運転認可申請は20年ごと何回でもできる。イギリス,フランスでは,運転認可期限に規定はなく,10年に1度の審査を受ければ延長できる。

しかし,先に確認したように,世界の実態は,多くの場合採算が取れず29年で閉鎖している。他方,再生可能エネルギーは,毎年発電コストを下げ競争力を強化しているから,原発の採算性はもうない。それにもかかわらず,原発事業者は,経済性を度外視して安全対策に巨額投資しているが,どんなに投資しても,際限のない運転延長は,とてつもなく危険であることに変わりはなく,エネルギー転換の世界的潮流に照らし合わせれば,もはや不可能な目論見である。

原発立地の地域変容にも注視する必要がある。原発の立地条件は,住民の被ばく低減のための制度だが,世界の原発は市街地へ接近しつつある。立地当初は人口の少ない田園だったが,立地条件が守られず開発がすすんで市街地になっている地域もある。

無理を押して老朽原発の運転延長を目指す事業者と,原発の立地条件を無視して原発を密集市街地に隣接させる自治体。2つの無節操なアクターにより,生存,生活に対する脅威がかつてなく高まっている。市民には,廃炉後のまちづくりヴィジョンを議論し,描く必要性が高まっている。


アメリカの事例:廃炉は地域産業にはならない

原発が廃炉になれば,地域にどんな影響と課題が出てくるだろうか。立地地域はどんな準備が必要だろうか。世界の廃炉地域の取り組みから考えたい。

取り上げるのはアメリカとドイツの廃炉地域である。この2つの国の事例が示す教訓は重要である。アメリカの事例から廃炉と核廃棄物貯蔵における地域の安全体制の課題を,ドイツの事例から新しい産業起こしの課題を考える。

アメリカの例は,メイン州ウィスカセット町,イリノイ州ザイオン市,マサチューセッツ州プリマス町の3自治体である(図2)。表1に,3廃炉地域の原発の概要を示した。3地域共通の廃炉の影響は,労働者の大量解雇,著しい税収減,使用済み核燃料の長期地元貯蔵である。このほか住民サービスの質の低下,住民の税負担増,地域経済の縮小も指摘された。


図2 アメリカ3廃炉地域の位置図


表1 アメリカ3原発の概要


1997年,メインヤンキー原発は設備トラブルを理由に廃炉となったが,地元ウィスカセット町に事前の備えは何もなかった。そして,町には使用済み核燃料の貯蔵施設が残されたまま「廃炉完了」とされた。自治体が,廃棄物保管の直接的間接的なコストを背負うことになった。こうした自治体を救済するために,座礁原発法案が出され,費用負担補償のための基金創設が提示されている。

1998年,ザイオン原発は経済上の判断によって閉鎖された。地元ザイオン市では,原発事業者とは異なる廃炉専門の事業者が,短期間・低コストの廃炉計画をたて,計画より完了時期を前倒しして事業を推し進めた。なじみのない事業者の廃炉を住民が監視することの難しさを示した事例である。廃炉事業者に定期的な情報公開を義務づける州法が成立した。

2019年,ピルグリム原発は採算性を理由に閉鎖された。地元プリマス町でも,原発事業者とは別の事業者が廃炉を実施することになり,原発事業者による当初計画より廃炉期間を短縮,事業費も縮小する廃炉計画をたてたため,住民の不安が高まった。廃炉事業者は,また,経費削減のため運転期に設定されていた10マイル(16km)圏の緊急時計画ゾーン撤廃を米国原子力規制委員会に申請,これが認められた。

3事例から明らかになった問題は,廃炉事業者による短期・低コストの廃炉計画,同じく廃炉事業者による廃炉を理由にした地域防災プログラムの後退,事業完了後,自治体が使用済み核燃料保管を押し付けられたことである。アメリカの廃炉はすでに39基にのぼるが(2020年1月),事業計画の適正評価,事業の透明性,地域防災体制,自治体の核廃棄物保管負担支援などの課題検討と制度整備はこれからである。


ドイツの事例:廃炉による地域への破滅的影響

次に検討する旧東ドイツ地域の小さな村,ルブミン村には,エネルギー工業北部(Energiewerke Nord, 以下,EWN)が運営するグライフスヴァルト原発8基(稼働4基,試運転1基,建設中3基)があった(図3,写真1)。ドイツ統一前後の1989年と1990年に相次いで,連邦政府より5基の閉鎖決定が下された(表2)。当時においては世界最大規模の閉鎖だった。


図3 ルブミン村の位置図

写真1 EWN社正面入り口(2015年8月筆者撮影)


表2 グライフスヴァルト原発の概要

原発の閉鎖決定は,ロシア型加圧水型原子炉の脆弱性という技術的問題に端を発し,当時の地域経済の停滞と電力需要の低下,原子炉の技術的問題を解決するための巨大コスト負担という問題に対して政治的に決断されたものだった。

そのグライフスヴァルト原発では,試運転前で汚染されていない6号機が公開されている。筆者は,2017年9月,その視察ツアーに参加した。前述の「原子炉の脆弱性」とは,原子炉を入れる格納容器がないことを指している。写真2は,原子炉内部を見たものである。


写真2 6号機原子炉内部


取り上げたルブミン村は,基幹産業の突然の廃止という事態を乗り越え,新産業起こしに成功した例で,ドイツの代表的新聞『フランクフルター=アルゲマイネ』が「ルブミンの奇跡」と評した例である。

原発8基の閉鎖と建設中止が地域社会にもたらした影響は,関係者らによってリアルに語られている。EWN社は,売電収入を失い,よく訓練された技術者と高度な資格をもつエンジニア6,000 人を解雇せざるを得なくなった。同社の利害関係者も収入が途絶え,労働者は西へ向けて転出していった。地域経済は停滞し,ルブミン村と州政府の税収は大幅に減少した。新たなビジネスや投資の誘致はもはや期待できず,地域の展望を描くことが困難になった。

当時の村長リーツ氏は,労働者の大量解雇は,地元とりわけ農村社会に著しい影響を及ぼしたと訴えた。特に産業のない地域では,伝統的な社会構造が崩壊する可能性があるとも訴えた。過度の原発依存で地域産業は衰退し,住民も深く分断させられている日本各地の立地地域は,廃炉の深淵を語ったリーツ氏のこの言葉を深く感じ取る必要があるだろう。

村の基幹産業の強制廃止という連邦政府の決定に,ルブミン村とEWN社は,サイト(敷地)再編計画やリストラ計画など何の用意もなく,大混乱に陥った。リーツ氏は,この事態の背景には,ドイツ統一時の制度やシステムの移行プロセスにおける異常な状況があったと指摘する。


廃炉事業と工業団地事業

2000年,EWN社は国営会社となり,グライフスヴァルト原発の廃炉は,連邦予算によって進められることになった。同社は,可能な限りコストを抑え迅速に進める方針を立て,これをもとに進めている。ここはアメリカの事例と異なる点で,アメリカの事例では住民らが事業者のそのような廃炉事業計画を批判し,定期的な情報公開を義務づける州法成立につなげた。

一方,放射性廃棄物がサイト内に残されるのは,ルブミン村も同じである。しかし,その先が異なっており,国営企業EWN社は廃棄物の処理・貯蔵も事業として展開している。すなわち,廃棄物処理と中間貯蔵事業を行う子会社を設立,サイト内に巨大な中間貯蔵施設を建設,2011年,ドイツ国内原発の解体廃棄物の処理,貯蔵を開始したのである。

自社の原発解体廃棄物はともかく,他原発のものまで搬入し,貯蔵することについては当然,地元では反対がある。ドイツでも最終処分場が決まっておらず,他原発の廃棄物も含めて長期に貯蔵される可能性が否定できないからである。EWN社は,国営事業として政府方針にしたがっているのだろう。

EWN社は,廃炉と廃炉関連の事業だけでなく,さらに収益事業を展開している。ここが,アメリカの事例には見られない重要な点である。事業は2つある。①廃炉専門事業者として他国原発の廃炉を担う,②原発サイトを一部解放して新エネルギー育成団地を運営する。①については,これまで東欧ブロックの原発の廃炉やロシアの原子力潜水艦の解体を担った。②については,事業者が不動産を処分,投資をすることを可能にした民営化法を適用して,サイト内に工業団地を計画,整備したのである。

工業団地の整備には,連邦政府,州政府,EUが支援をした(表2)。その内訳は,連邦政府は,国営事業となった廃炉と廃炉関連事業に対して支援し,州政府は,廃炉地域の経済発展と労働市場の活性化に対して支援した。


表2 廃炉と工業団地整備への支援 

州政府は,まず民営化法で可能になったサイト開発について検討するため地元自治体,ビジネス界,商工会議所,労使協議会の代表で構成する作業部会を設立し,部会は工業団地の整備プログラムを作成した。そして,プログラムにしたがい工業団地への企業誘致支援をした。

ルブミン村は,1998年,工業団地への企業誘致を先行開始,2004年,工業団地事業の法的根拠となる計画「工業と商業地域ルブミナーハイデ土地開発計画」を策定,ルーベノウ村,クレスリン村とともに事務連合を組織,事務連合による工業団地のインフラ管理会社を設立した。州政府は,このインフラ管理会社を後援し,特別な問題が発生した場合には,必要な行動を調整するためのタスクフォースを設置することとした。

工業団地には,これまでに30社を超える企業や機関が入居した。ノルドストリーム社(天然ガスパイプライン),バハトフレッヘ社(太陽光発電設備),ルブミンオイル社(バイオディーゼル,バイオオイル),リープヘル社(機械,写真3),MAB社(船舶),RIS工業&発電サービス社,ドイツオイル工場ルブミン社,H+S船舶荷役ルブミン社などがある。


写真3 原発タービン建屋を転用した工場で操業するリープヘル社(2017年9月筆者撮影)


 ノルドストリーム社は,ロシアの天然ガスをEU市場に輸送する企業である。ロシア・ヴィボルクとルブミンを結ぶ世界最長1224kmの海底パイプラインを敷設し,2011年に供給を開始した。供給開始前の2002年,ルブミンの税収は4.65万ユーロだったが,開始後の2016年には455万ユーロへと,14年の間にほぼ100倍となった。ノルドストリーム社は,ルブミンの財政改善にもっとも大きく貢献した。

 しかし,2022年2月にロシアが始めたウクライナ侵略でガス供給は停止された。ノルドストリーム社の税収が大きかったルブミン村は,工業団地開業以来の大きな減収に直面している。


廃炉地域の教訓

尾松は,アメリカの廃炉地域の事例から学ぶべきこととして,①廃炉は地域産業にならない,②新産業創出には国が関与を,③廃炉時代も続く原子力防災,④地域からの廃炉監視に法的権限を,の4点にまとめ,次のように解説する。

①廃炉は,雇用創出効果や事業期間の面で期待は薄く,長期安定的な地域産業にならない。また,立地自治体が,自前の財源で新産業を生み出すことは難しい。そうであるなら,②地域再建に政府機関が関与する取り組みが重要になる。③核廃棄物が立地地域に残される可能性が高いことは,私たちが知らされる厳しい現実である。廃炉後も事故リスクは残されるから,事業者の廃棄物貯蔵管理に注視する必要がある。④そのために,一定の法的権限が与えられた住民参加型の廃炉監視組織を設置する必要がある。

上述のアメリカの教訓4点に照らし合わせると,ドイツの事例は違いが鮮明である。①については,ドイツの例は完全に正反対である。すなわち,原発事業者は蓄積した技術をもつ廃炉専門事業者となり,国内と他国へ事業を広げている。②についてもまったく正反対で,国家を失った旧東ドイツ地域の原発という特殊性に助けられたという事情があるが,連邦政府と州政府が積極的に経済支援に動いた。④についてはアメリカと同様と言っていいが,そもそも,ドイツの事例では住民の事業への監視体制がない。

ドイツの事例は,さらに次の教訓も私たちに示している。巨大原発サイトの事業廃止がもたらす地域への影響はとても大きく,政府の廃炉決定には地元自治体との協議が必要であり,地元ではサイト再編計画やリストラ計画など事前準備が重要である。リーツ氏は,地域のインフラ投資のための特別予算パッケージも必要だと指摘する。また,廃炉が技術水準の高い労働者の大量損失を引き起こし,人口の大量流出が農村の伝統的な社会構造を崩壊させる可能性さえあったという指摘にも留意する必要がある。急激な社会変化を避けるために,段階的な転換に向けた計画と準備が重要になる。


さいごに,福島のイノベーションコースト構想を批判する

 日本にも廃炉サイトがある。事故サイトの福島第一原発サイトである。サイトがある浜通りでは現在,アメリカ・ハンフォードサイトをモデルとした,国家プロジェクト・イノベーションコースト構想を基軸にして地域の「産業発展」が目指されている。2017年から19年の3年間で2,300億円が投じられ,廃炉研究,ロボット,エネルギー,農林水産,環境・リサイクルなどの分野で事業が展開されている。

モデルとなったハンフォードサイトとは,第二次世界大戦中のマンハッタン計画をもとにプルトニウムの製造拠点とされた区域である。連邦政府は,この地を「犠牲区域」と規定して,先住民族に戦争が終われば戻れると嘘の説得をして居住地を退去させた。そして,冷戦期まで稼働,世界で最も放射能で汚染された区域になった。その地元トリシティーズは現在,ハイテク,エネルギー,廃炉・除染などで全米有数の繁栄を誇る地域に発展しているという。

 イノベーションコースト構想は,このハンフォードサイトのいわば日本版焼増しである。しかし,この構想には,地元商工業者の復興を後押しする事業分野はほとんどない。巨大な国家事業で外発的開発に期待する方法は,地元の事業者と住民が求めている復興にはつながらないのである。地元からの構想力と提案力が強く求められている。



参考文献

尾松 亮編著,乾 康代,今井 照,大城 聡著 :『原発「廃炉」地域ハンドブック』,東洋書店新社,2021

乾 康代:『原発都市 歪められた都市開発の未来』,幻冬舎ルネッサンス新書,2018

Matthias Lietz : The Case of Greifswald, Promises and Realities as Seen from a Regional Point of View, Group of European Municipalities and their Futures, 2000

石山徳子:『「犠牲区域」のアメリカ 核開発と先住民族』,岩波書店,2020

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