書評『チェルノブイリ並み被ばくで多発する福島甲状腺がん:線量過小評価で墓穴をほったUNSCEAR報告』


「福島第一原発事故による被ばく量はチェルノブイリ原発事故よりはるかに小さい」,とする言説が流布されている。福島県の専門家会議は,「多発している甲状腺がんは被ばくとは関係がない」,と主張する。しかし,小児甲状腺がんは100万人に1人から2人という希少な病気であるにもかかわらず,福島県では,これまで約300人が小児甲状腺がんと診断されている。

2022年,福島で被ばくし小児甲状腺がんを発症した7人の若者が「311子ども甲状腺がん裁判」を起こした。被告の東電ホールディングスは,「原告らの被ばく線量は,甲状腺等価線量で10ミリシーベルト以下と推定され,被ばくにより甲状腺がんが招来されたという関係は認められない」と主張する。東電のこの非情な主張は,UNSCEAR報告のシミュレーション値を根拠にしている。しかし,裁判において東電側は,原告側から提出された,3/15~3/16に発生した放射性プルームを加味した黒田報告の実測値を無視している。

UNSCEARとは何か。UNSCEAR報告はどんな意見をしたのか。

本書は,「福島原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会」(以下,会)の研究者ら8人が論考を寄せ,福島の線量を過小評価し墓穴を掘ったとしてUNSCEAR報告の間違いを追及したものである。

高橋は,UNSCEAR(アンスケア,原子放射線の影響に関する国連科学委員会)とは医学研究機関であるより,マンハッタン計画を源流とし人体実験の系譜にある機関であることを示した。加藤は,UNSCEARが福島の甲状腺被ばくを約1/50〜1/100に過小評価していることを明らかにした。本行は,被ばく量の最大値と個々の被ばく量の把握が重要だが,過小条件の積み上げで,線量が低いのでがんは発生しない,とした間違いを指摘した。

IAEA(国際原子力機関)は1996年,「現時点で,チェルノブイリ原発事故と因果関係が明らかなのは小児甲状腺がんのみ」と報告した。しかし,原発事故後,甲状腺がんだけでなく,周産期死亡率・低体重児の増加,心筋梗塞,がんの増加といった健康被害が観察されている(AVヤブロコフ氏ほか『調査報告チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店,2013))。会は,本書は「甲状腺がんに留まらず,これらの健康被害の究明にも資するものである」として,本書に続く健康被害研究の深化発展に期待している。



続編が出版された。

『なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?: UNSCEAR報告書の問題点と被ばくの深刻な現実』(2024年5月)

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