ドイツ・ルブミンから廃炉後の地域の描き方を考える

 運転40年を超えて再稼働しようとしている原発は,高浜1,2号機,美浜3号機。東海第二原発がこれに続こうとしている。これらの再稼働を阻止すれば美浜町,東海村は原発ゼロの町になる。敦賀市も加わるかもしれない。これら3市町村に限らず,どの立地地域もいずれまもなく原発ゼロの町になる。

ところが,原発ゼロの後の地域をどう描くか,真剣な議論が始まっていない。

原発がやってきた半世紀前の東海村を思い返してほしい。1956年,突然の原研設置決定でついてきた「原子力センター」建設に浮かれ,その中身について議論をせず理解もしないまま,突然,予想もしなかった原発と再処理施設を受け入れることになってしまった。この失敗を思い起こし,市民的な議論をベースに原発のない地域の将来を描いていかなければならないと思う。

今回は,その議論の素材として,バルト海に面しポーランド国境までわずか50km弱というところにある,ドイツの小さな村ルブミンの地域再生を紹介したい。

ルブミンは,グライフスヴァルト原発(8基)のある原発依存の村だったが,このソ連製原発は格納容器のない構造であった。1990年,当時の西ドイツの規制に不適合ということで,稼働5基の閉鎖が決定した。これにより,原発労働者の大量解雇と人口の大量流出,これらが連鎖して起こった。

廃炉決定から約30年たった現在,ルブミンは村が属する州の中でも豊かさトップレベル,人口も増加する村になった。ルブミンはなぜ地域再生に成功できたのか。そして,なぜ人口が増える村になったのか。

最初の問いの答えは,工場団地の成功である。この成功でルブミンの税収は飛躍に増加した。二つ目の答え,ルブミンの人口増加を導いたものは,豊かな財政と,これによって実現できた,美しく保全された自然環境と住みよい住環境である。この自然環境と住環境に,毎年,多くの観光客が訪れ,新たに住まいを定めてやってくる。

工場団地は,原発サイト(敷地)の一部に再開発してつくられた。この団地で,税収増加に大きく貢献しているのが,巨大プロジェクトを展開しているノルド・ストリーム社である。ロシアの半国営企業ガスプロム社とEUのエネルギーコンツェルン(ドイツ,オランダ,フランス)が出資して設立された同社は,ロシアの天然ガスをルブミンまで海底輸送し,EU市場へ供給している(図 *)

                                    ノルド・ストリーム社の天然ガスパイプライン


事業は長大である。ロシアのウィボルクとルブミンを結ぶ海底パイプラインは1,224km,世界最長である。2011年11月,プロジェクト,ノルド・ストリームⅠの1本目のパイプライン輸送が開始され,翌2012年10月,2本目の輸送が始まった。2019年末にはノルド・ストリームⅡが完成する予定だという。

ルブミンの税収の中でも大きいのが,企業の利益に対して課される営業税で,税収の6割を占める。この営業税の伸びが凄まじい。団地供用前の2002年はわずか4.65万ユーロに過ぎなかったが,2016年には455万ユーロへ増加した。実に100倍の増加である。

ルブミンはこうして,周辺自治体の中でも飛び抜けて財政力のある自治体になり,豊かになった財政を背景に人口が53.8%増加した(ドイツ統一時の1900年に対し2016年)。旧東ドイツ地域の人口が14.9%減少(1990年に対し2015年)していることと照らし合わせると,ルブミンの人口増加がどれほどのものかがわかる。

観光客も急増した。宿泊件数でみると51%増加した(2006年に対し2014年)。ルブミンの観光客の大半が旧東ドイツ地域の人々であり,しかも同地域の人口が減少しているなかでの急増だから,観光もよく振興した。

どのような人々がルブミンに転入してきているのだろうか。2018年1〜2月にルブミンで実施したアンケート調査で意外なことがわかった。調査前は,廃炉会社(EWN社)や工場団地の企業の就職でやってきた人で人口が増加したのだろうと予想していた。しかし,その予想は完全に外れた。廃炉決定後にルブミンに転入した人に,そのような目的の人は少なく,この村の自然環境の豊かさや住環境のよさを評価した人が多かったのである。

写真は,9月のルブミンの海岸である。夏季の観光シーズンが過ぎた後なので,砂浜を散策する人はほとんどいないが,この写真で見ておきたいのは,砂浜海岸をもつ日本の観光地にありがちな高層のホテルやマンション,その他大きな構造物がないことである。開発が厳しく規制されているのである。人々は,この砂浜海岸で遊泳,散策し,満足して帰るという。

ルブミンの海岸


ドイツには日本にない制度がある。一つは,原発サイト(敷地)にかけられている原子力法の規制を解放する制度である。サイト解放基準というが,日本では未だ制定されていない。廃棄物の行き場がないので,廃炉後も貯蔵のためにサイトを引き続き利用することを企図しているからだろう。

二つ目に,民間企業が地区詳細計画の策定に参画できる制度である。日本ではなかなか考えにくい制度だが,ここでは,立地自治体3者とEWN社で事務連合をつくり,サイトの一部について地区詳細計画を策定,工場団地を整備,企業誘致に取り組んだ。

新エネルギー産業育成を目指したこの工業団地には,先の天然ガス輸入をはじめ風力発電機械設備,バイオオイル生産などの企業が操業している。石炭火力発電所計画は,住民,地元自治体,州政府が反対して撤退させた。

ルブミンの取り組みの特徴は共同性と創造性にあると思う。ルブミンは,4者が集まって,廃炉事業にしがみつくことなく,原発に代わる新たな産業団地の計画を練りあげて成功させた。

日本には,サイト解放基準がない,当該事業者が加わる土地利用計画策定の制度がないなど,彼我の差は大きい。サイト解放基準が未だ制定されないという問題は大きいが,それよりもっと大きな問題だと思うのが,電源三法交付金である。ドイツにこのような制度はない。当初,原発誘致の制度だったこの交付金は,その後,貯蔵施設誘致,廃炉事業にまで対象が拡大された。立地地域が容易に原発依存を断ち切れないように機能する制度になっている。

原発依存を断ち切り,原発に代わる新たな地域産業を構想し,本当の意味での安全な居住地づくりを構想すること,そのための議論を始めることが立地地域と地域の住民に求められているのだと思う。


* Logistics of the Pipeline,Nord Stream,2010


(原電茨城事務所前抗議行動「星空講義」5,2019年5月31日)

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