高校校舎の耐震改修を工事せずに解決する方法?

奈良県で,高校校舎の耐震改修を工事せずに解決するという計画がある。この計画のために,閉校という緊急事態に直面している高校生たちがいる。  


奈良県立平城高校を閉校させ,県立奈良高校が平城高校の校舎に移転する計画があるということを知った。この計画の背景には,奈良高校の1964年と66年竣工校舎の耐震改修が,今日まで40年近くも放置されてきたという事情がある。

まずは,どんな計画なのか,2018年6月の「県立高等学校適正化実施計画(案)」と,つづいて発表された同年10月の「県立高等学校適正化実施計画」(以下,適正化計画。奈良県教育委員会)を読んだ。ここには,10校閉校,1校閉課程,1校移転,合計12校の年次計画が載せられている。県立高校39校・分校の30.7%,3校に1校の割合で「適正化」される。新たに8校が開校・学科設置される。

「適正化計画」には,全ての章タイトルに,「『魅力ある活力あるこれからの高校づくり』のため」という冠がつけられている。高校の統廃合,再編計画にも全て,この冠がつけられている。なんとも空疎で,県教育委員会に底の浅さを感じる。

閉校が予定されている10校を取り上げ,それらの計画を整理してみた。3グループに分けられる。①3校閉校して2校開校=1例,②2校閉校して1校開校=2例,③1校閉校して1校開校=3例,となる。②と③はいずれも,開校する学校は閉校する学校を利用する。問題なのが①である。

①グループの3校は,平城高校(1980年開校),西ノ京高校(1978年開校),登美ヶ丘高校(1987年開校)で,いずれも奈良市内にあり,しかも比較的新しい学校である。3校が閉校し,再編して2校が開校し2つの学校を利用するが,1校だけ開校する学校に使われない。それが平城高校である。平城高校だけ,同じく奈良市内にある既存の奈良高校に校舎を全面的に譲るのである。

計画発表は2018年6月,平城高校は2019年度生徒募集を停止,2年後の2021年度3月をもって閉校,翌月4月に奈良高校が移転,という展開の速さである。

これら3校の入れ替えはこんな感じで進められる。西の京高校と登美ヶ丘高校では,2019度生徒募集を停止,2020度以降生徒が減る一方で,それぞれ新しく開校する学校の1年生が順次入ってくる。3年で生徒が入れ替わる。やってくる新入生は別の学校の生徒だが,校舎は引き継がれ,2つの学校の生徒の2年間の混在過程で,学校の文化の一部(または全部)が受け継がれるだろう。

しかし,平城高校は違う。漸次生徒を減らしてゼロにしたところで,奈良高生が3学年一気に移転してくる。入れ替えの方式は上の2校と全然違うから,文化の継承も何もない。

この計画はどのようにしてできたのか推測してみた。生徒が減少してきた。奈良市内に増えてしまった県立高校を整理する必要も出てきた。そこで,奈良市内の県立高校の整理と,懸案の奈良高校校舎の耐震化を同時に解決する。出てきた案が,歴史が比較的浅い高校を統廃合し,1校を空き学校にする。そこへ奈良高校を移転させる。こう考えると,3校の統廃合,再編は,奈良高校のために仕組まれたものだということがわかる。

では,3校の中でも,なぜ平城高校が奈良高校の移転先に狙われたのか。多分,立地の良さである。西の京高校,登美ヶ丘高校とも最寄り駅から離れているが,平城高校は駅の目の前である。

以上は推測だが,かなり当たっているのではないか。この計画は,奈良県教育委員会が奈良高校の耐震化を後回しにしてきたツケを,歴史が比較的浅く,通学至便の平城高校に払わせるという身勝手な計画なのである。

奈良高校は1924年創立,現校舎は,奈良盆地の北端,平城山の南斜面にあって,奈良盆地を望む立地である。1964年から順次新校舎が竣工,1967年に全生徒が新校舎に移転した。私はこの新校舎で3年間すごした。この新校舎には開校したばかりの北和女子高校が間借りしていた。

文科省による公立高校施設の耐震化等の状況をみると,奈良県の耐震化率76.6%,耐震化順位は全国46位である。最下位47位は神奈川県71.6%である。施設数が飛び抜けて多い東京都は100.0%,1位,続いて多い大阪府98.5%,10位,兵庫県91.6%,32位,愛知県90.5%,35位,福岡県97.3%,18位などである。平均93.7%である(2015年4月1日現在,文部科学省 報道発表2015年6月2日)。

全国レベルで見ると,公立高校の耐震化実施率93.7%は,小中学校の95.6%とは差はない。ところが,奈良県のそれを比較すると著しい格差がある。公立高校76.6%(46位)に対し,小中学校は94.0%(全国32位)なのである。要するに,小中学校は全国レベル並みに耐震改修を進めてきたが,高校は耐震化を遅らせてきた。

なぜ奈良高校は耐震改修が遅れたのか。個別の事情はわからないが,上のデータから言えるのは,奈良高校の耐震改修は意図して後回しにされてきたということである。しんぶん赤旗が正しくこれを指摘している。関係のない学校を巻き添えにするのはまったく理に合わない計画である。教育行政機関がそのような計画はすべきではない。

耐震改修が完了していないのは,奈良高校だけではない。他にもあるのに,奈良高校だけが他校へ移転する。なぜ奈良高校は他校移転なのか,なぜ現校舎の耐震化をしないのか。県教育委員会は,奈良高校には説明したのだろうが,新聞報道は,平城高校側の声を集めることに関心が集まっていて,知りたいここのところの報道が見当たらない(あれば教えてほしい)。

以上,平城高校の生徒の側に立って考えてきたが,奈良高校の生徒の側に立ってもこの計画には反対である。学校乗っ取りのような移転はしてほしくない。もし移転して恨まれることがあっても恨む相手が違うとは言えない,言われるだけのことはしていると受け止めなければならないと思う。

奈良県の教育史の汚点になる。そうならないように,県教育委員会は,「奈良県立平城高等学校校友会」が集めた4万人以上の反対署名の重さを受け止め,平城高校,同校の生徒,保護者と深く話し合う必要がある。


「『閉校やめろ』批判相次ぐ 奈良・平城高,教育長矢面」,教育新聞,2018年10月9日
「社会リポート 奈良県立高校削減計画 耐震化さぼり統廃合 反対署名が約4万人分」,しんぶん赤旗,2019年3月23日  


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