東海第二再稼働 議会多数派が県民投票反対の理由にした「3条件論」がもたらすもの

2020年の6月県議会で上程された,東海第二原発の再稼働の是非を問う県民投票条例案が否決された(写真)。明らかな間違いに基づく反対理由を除くと,議員の反対理由は,大きくは県民意思を問う時期論,「3条件論」*,二者択一の方法論,コスト問題に整理できる。

このうち,「3条件論」とは,原発再稼働の是非を問う時期は,①安全性の検証,②実効性ある避難計画の策定,③県民に情報提供,の3条件が整った後であるというものである。徳田太郎氏(県民投票条例の制定請求代表者)は,議員の反対理由に対して説得力ある反論を展開したが,この3条件論については「県民投票実施の前提事項になりうる」と述べただけで,これを批判しなかった **。

写真 「県民投票条例案」を賛成少数で否決した県議会本会議=6月23日,茨城県議会,しんぶん赤旗,2020年6月24日(提供=高橋誠一郎記者)


「3条件論」を検討する理由

しかし,この3条件論には問題がある。それはどんな問題か。本論は,まずは,3条件論がどういう経緯で出てきたのかを明らかにし,つづいて,なぜ県民に再稼働の是非を聞くのに3条件を付けるのか,3条件論はどのような事態をもたらすかを考える。

第一の検討課題,3条件論はどのような経緯で出てきたのか。

6月議会連合審査会,県民投票条例の反対討論で,白田議員(いばらき自民)が「知事の意見書ならびにこれまでの発言を踏まえれば,安全性の検証と実効性ある避難計画の策定、そして県民の情報提供といった条件が整わない限り,判断されないものと推察される」と述べた。この言葉に示されるように,3条件論のルーツはそもそもは大井川知事の発言にある。


知事が示した県民意見聴取の前提3事項

2020年1月6日,県民投票条例制定の直接請求のための署名が開始した,まさにその日,知事は,NHK水戸のインタビューで次のように説明した ***。

「例えば安全性、県独自で、テロ対策であるとか(中略),災害の対策、どこまでが限界なのか,についての疑問に答えるように今、検討を進めてますし,それに加えてですね、避難計画も実効性という観点で、どれだけ実効性のある避難計画を作れるのか、今、各市町村、UPZ内の各市町村で作ってますけど(中略),その準備が終わった段階で、しっかりと、県民の皆さんの判断、ご意見、というのを聞いていって最終的な判断に結びつけるということなのかな,と思っています」。

知事は,ここで,①安全性の検討と,②どれだけ実効性のある避難計画を作れるか,にしっかりと取り組んでいるということをアピールした。そして,これらが終わったら県民の意見を聞くと言ったのである。この時点では,県民の意見を聞く前段階事項は2つだった。

この後,2か月間の署名活動が県内各地で展開し,そろそろ活動も終わろうとしていた3月定例議会で,知事の説明は次のように変化した。

「今後,安全性の検証が終了し,実効性ある避難計画が策定できた段階において,国や市町村と連携し,県民の皆様にこれらの内容をわかりやすく説明する場を設けるなど,県民の皆様が適切に再稼働について判断できる環境を整えてまいります」。

知事は,①安全性の検証の終了,②実効性ある避難計画が策定できたら,③県民にこれらをわかりやすく説明する,という作業を加え,その上で県民の判断を求めると述べたのである。3つの作業の関係は,①が終了し,②ができれば,③を実施するという3段階構えになった。

そして,6月議会,8万6703筆の署名とともに県民投票条例制定の直接請求がなされた。知事は,条例案につけた意見書で次のように説明した。

「東海第二発電所の再稼働の是非については,まずは,安全性の検証と実効性ある避難計画の策定に取り組み,県民に情報提供した上で,県民や,避難計画を策定する市町村,並びに県議会の意見を伺いながら判断していく」。

知事は,1月以来,県議会へ請求されることになる県民投票条例制定にどう答えるか考えてきたことだろう。①と②は変わらなかったが,③の表現が変わった。「県民にこれらをわかりやすく説明する」は「情報提供」に変わった。取り組みの報告が情報提供になったのである。知事は,これまでの発言で明らかなように再稼働推進の立場である。客観的な取り組みの報告ではなく,再稼働に誘導する情報の提供を狙ったのであろう。

ここまで知事の発言の変遷を見てきたが,確認しておきたいのは,知事の趣旨は,県民の意見を聞く前提段階の作業として3つあるという,いわば段取りである。条件ではない。


議会反対会派によってつくられた「3条件論」

第二の課題,なぜ県民に再稼働の是非を聞くのに条件を付けるのか,について検討する。

県民投票の議論が県議会に移されると,知事の3段取り論は,県民投票に反対する会派によって意味内容が変更させられた。表現が変えられ,新たな目的が付与されたのである。

一部再掲になるが,白田議員(いばらき自民)の発言を読んでみよう。

「知事の意見書ならびにこれまでの発言を踏まえれば、安全性の検証と実効性ある避難計画の策定、そして県民の情報提供といった条件が整わない限り、判断されないものと推察される。これは少なくとも、安全対策工事が完了する2022年度末以降まで、条例案の根幹である県民投票は実施されないことを意味する」。

「知事が『慎重に』と附した意見を踏まえれば、3つの条件が整った上で,県民や,避難計画を策定する市町村ならびに県議会の意見を聞くのが,適切なタイミングであり(略)」。

知事が示してきた県民意見聴取の3つの段取りは,「3条件」に書き換えられた。県民の意見を聞くためには3条件が揃わないといけないという主張に変わったのである。段取りを条件に置き換えることで,実現のハードルを上げようとしたのである。さらに意見を聞く「タイミング」論(時期論)も加えられて,県民投票反対の強固な理由に仕立てられた。

よく似た論は,県民フォーラム(国民民主党)会派でも展開された。

「長と議会の意見に相違があった場合や議会の中で熟議を重ねても判断がつかないときに最終判断を県民に決めてもらうことが理想的」。

3条件論といい最終判断決定論といい,いずれも県民の意見聴取は各種の作業のなかで最終順位につけるという点で共通している。彼らが,県民の意見聴取を最終順位につける意図はどこにあるのだろうか。


段取り論の最終段階につけられる県民の意見聴取

2019年6月,東海第二発電所安全性検討ワーキングチームの委員と事務局が,206の疑問を原電に提示した ****。原発に批判的な学者がいる訳でもないワーキングチームからこれだけの疑問が示された訳だが,原電は回答不能に陥っているという。県民も,県主催の住民説明会,および「意見募集」に計1,215件もの意見が寄せられた *****。要するに,原発再稼働に対する安全性確保はほとんど無理な状況にある。たとえ,県が検証を完了したと宣言しても,県民が納得できるレベルに到達することはない。

②の避難計画については,県は,複合災害への対応,移動手段の確保,要配慮者対策など25項目の課題を整理している ******。難題ばかりだが,これに加えて6月,国から被ばく防護措置とコロナ感染防止策を両立させるという考え方が示された。

国の要請に応じて,これまでの計画に感染症対策を加えるとどうなるか。たとえば,住民の避難バスの場合,茨城県では必要台数が従来想定の2,3倍に膨らむ。県は,未だ地域ごとに必要なバスの台数や運転手の安全確保のための対策など,協力に必要な条件が示すことができないため,県バス協会との協力協定は未締結状況が続いている。他方で,新型コロナウイルスの感染拡大は,バス会社にも大きな影響をもたらしており,バスの休車,3カ月点検や車検が未実施のままなどの状況にある。経営困難に陥っている会社もある。従来想定の2,3倍のバスを提供することは,完全に不可能なのである *******。県が,避難者を受け入れる自治体の受け入れ計画作成に対する支援もまだだという。

要するに,①も②も進捗しておらず,達成そのものが不可能である。6月,知事は,「2022年の末どころではない。もっと時間がかかる」と言わざるを得なかった。

知事は,解決不能な課題を前にニッチもサッチもいかない事態を直視せず,自ら判断することも忌避している。3条件論に従えば,県民に対して意見を聴取する機会は絶対やってこないということになる。


これから溢れ出す安全神話情報にどう立ち向かうか

そもそもこの3条件論は,県民投票反対の理由づけのために,知事の3段取り論を言い換えて利用したものである。だから,この論は,今後,すぐに変質していくだろう。

知事の3段取り論を振り返ってみたい。①と②が完了した後に③の県民に情報を提供する,という。上述したように①と②は進捗しておらず,③はこれまで未着手だった。その③が,2020年度から開始される。今年の3月議会で,下路議員(いばらき自民,東海村区)の次の質問に対する答弁で明らかにされた。

「国や県が事態を冷静にコントロールするには,その前提として,新安全基準に基づいた対応を県民が理解していなければなりません。(中略)それを県民にどのように伝え」るのか,に対して知事は,「新年度には,安全性の検証の状況や,避難計画の課題とその検討の状況についてお伝えする新たな広報誌を発行」すると答弁したのである。

広報誌の配布はまだだが,これから明らかになるだろう課題を2つ考えた。

一つは,県民に提供される内容である。どのような内容になるか,これまでの議会での議論を読み解きながら考える。

「国や県が事態を冷静にコントロールするには,その前提として,新安全基準に基づいた対応を県民が理解していなければなりません」(下路議員,3月議会)。

「すべての県民が正しい情報を得て,正しい判断を導くことを,県が担保することは大変困難である」(白田議員,県民投票の反対理由として,6月議会)。

下路議員の「(前略)新安全基準に基づいた対応を県民が理解し」とは,PAZ(5km圏=東海村)の住民よりUPZ(30km圏)の住民が先に逃げるな,という主張である。だから,今後,新安全基準を順守せよ,正しく行動せよ,という指示情報が繰り返し流されるだろう。しかし,UPZ圏の住民は,被ばくを甘受せよという基準を甘受できるだろうか。

一方の白田議員が言う「正しい情報」「正しい判断」の裏には,当然「間違った情報」「間違った判断」が念頭にある。議員は,県民が「間違った情報で間違った判断」することを危惧しているのである。再稼働に賛成する立場からすれば正しい情報とは何で,間違った判断とは何かはっきりしている。

ここから考えられることは,県が提供する情報は操作され,安全神話が満ち溢れているだろう。また,①と②の完了によらずに③を開始するということは,とにかく形だけでも①と②を完了させ,③も完了したことにする狙いがあるのではないかという疑惑も出てくる。

東海第二原発の再稼働対策工事が完了した時,議会の再稼働推進派と原子力ムラ界隈の人々は,再稼働承認を強く働きかける勢力へと変質するだろう。一方的に安全神話情報を提供されつづけてきた県民は,その時,自分の信念に従って最善の判断をすることができるだろうか。

県民投票を実現できなかったのは本当に悔やまれるが,県民の意見聴取の方策は,①安全性の検証,②実効性ある避難計画の策定とはまったく切り離して,今すぐに独自に実施する準備を進めることを求めなければならない。そのために,改めて,段取り論にも条件論にも寄らず,住民の意見を聞くことが求められる理由をまとめなければならない。



* 「3条件論」は,常磐大学教授吉田 勉氏(地方自治論,行政法学)が,2020年7月5日,水戸市内で開催された「県民投票フェスvol.9 6月議会を振り返る」で,説明用語として使われたものである。
**  いばらき原発県民投票の会「連合審査会における反対意見表明に対する指摘事項」,2020年6月21日
*** 大井川知事の発言(2020年1月6日,NHK水戸)
**** 茨城県防災・危機管理部原子力安全対策課「 委員の指摘事項等を踏まえた論点(案)」2019年6月
***** 茨城県防災・危機管理部原子力安全対策課「県民意見を踏まえた論点(案)」,2019年6月26日
****** 茨城県原子力安全対策課「避難計画の主な課題」
******* 新型コロナ 東海第2原発 県避難計画、見直し検討「3密」回避 バス2~3倍必要,毎日新聞茨城版,2020年7月22日


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