東海第二原発水戸地裁 住民勝訴 東海村長は判決を自分ごと化すべきだ
3月18日,住民が起こした,東海第二原発差し止め訴訟の水戸地裁判決(前田英子裁判長)が出た。14時半,開廷,判決文が読まれるや,弁護士ら3人が飛び出してきて,外で報告を待つ私たち市民の前で,「勝訴」「東海第二原発,再稼働認めず」「首都圏も守られた」の旗を広げた(図1)。
図1 水戸地裁前で
判決は,国際原子力機関(IAEA)が採用する5段階の深層防護は,どれもが独立して機能することが求められるが,東海第二原発の場合,第5の防護レベルである避難計画については,30km圏に94万人もの人々が住み,安全に避難する計画策定など到底不可能である,人口最多の水戸市(27万人)では未だ策定できていない,30km圏内に住む原告に人格権侵害の具体的危険がある,というこの一点で原発の再稼働を禁じた。
良識的な判断であり,住民の人格権侵害を認めた画期的な判決である。市民がもっとも待ち望んだ判決だったと思う。河合弘之弁護団長が,判決後の記者会見でちらっと,裁判長が女性で地元に住んでいることもある,と言っていたが,私はそこだと思っている。国策や経済より命と生活を重視し,正しく判断ができるのは女性の強みだ。前田英子裁判長の経歴と判決を深く辿れば,きっとそのことが見えてくるはずだ。
さっそく住民勝利の判決を受けて,立地自治体と事前了解権をもつ自治体の首長のコメントが出された。
東海村山田修村長「広域避難計画の実効性向上と住民の意向把握に取り組んでいる。司法上の一つの判断がなされたと冷静に受け止めている」
茨城県大井川和彦知事「司法の判断であり県は当事者でないことからコメントは差し控える」
水戸市高橋靖市長「実効性のある避難計画の策定と市民の理解がなければ(再稼働が)ありえない」那珂市先崎光市長「原電に市民、市議会への丁寧な説明を要求する」
山田村長,大井川知事のコメントは,まるで他人事だ。2人のコメントが他人事だという理由は,この二つの自治体は,東海原発設置の時から今日まで,原発サイト周辺の開発規制をサボタージュしてきた自治体で,今日,原発サイト周辺に住む住民の人格権侵害に深くかかわってきた自治体だというところにある。
水戸市長は,この判決を受けたコメントを求められているのにもかかわらず,2019年4月の市長選時のスローガン「実効性ある避難計画がなければ再稼働はあり得ない」をそのままを繰り返した。水戸市は,判決で人口最大の水戸市がいまだ避難計画ができていないと指摘され,東京新聞からは「『机上の空論』直視を」せよ,と厳しく批判された当の自治体である。市長は,これらを受け止めた上で改めてコメントしてほしい。
那珂市長のコメントは,判決を受けたコメントとしては完全に外れている。
さて,ここから,山田村長と大井川知事がまるで他人事だ,と批判した意味について,改めて解説したい。判決でも触れられた,1964年制定の原子炉立地審査指針(立地審査指針)について。これは,原発を設置する周辺環境について,原子炉から一定距離は非居住区域であり,その外側は低人口地帯であること,人口密集地帯はある距離を離していることを規定する指針である。
この指針は,設置審査時点で,設置許可できるかどうかを審査するものだが,設置許可後もこの環境は維持されなければならない。放っておいたら周辺で開発が進んでしまって,立地審査指針違反になってしまうからだ。したがって当然,立地自治体は,都市計画をとおして,原発サイト周辺の開発規制をすることが求められる。ところが,旧都市計画法のもとでの茨城県,およびその後の東海村は,厳格に周辺開発規制をやってこなかった。
正確にいえば,1965年の茨城県原子力施設地帯整備基本計画では,原発サイト周辺に14箇所の緑地,公園を指定して,これをグリーンベルトと見立てて原発サイトへ開発が近づくことを抑制しようとはした。しかし,これらが都市計画で指定されることはなく,この半世紀の間にほとんどが開発されてしまった。平原工業団地,緑ヶ丘団地,J-PARKなどである。今や残るのは,都市計画公園として阿漕ヶ浦公園と白方公園など小さな緑だけである *。
さらに,現在では,東海第二原発の再稼働に向けた工事のために,サイト周辺の畑が相次いで宅地化され,工事事務所,駐車場などに転用されている **。
このようにしてできたのが,市街地に囲まれる東海第二原発の姿である(図2)。
図2 東海第二原発(左)と東海原発(右,廃炉中) (2021年10月,阿部功志氏撮影)
茨城県,東海村は,原発サイトの周辺開発規制をきちんとすべきだった。それをしなかったのは,原発の安全神話に囚われてきたからだ。今からでも,安全な居住地整備に取り組むべきだが,東海村の総合計画を見てもそのような整備計画はない。
千葉県市原市の都市計画を見てみたい。3.11のとき,臨海部の石油コンビナートで,液化石油ガスタンクが爆発,巨大火災が発生したところである ***。ここでは,住居用用途地域を,タンクが林立する工業専用地域から空間的に離すために,千葉県は独自に条例をつくって,二つの用途地域の間に特別工業地区を設けている。これによって,課題はなお残されてはいるものの,タンク林立地区と住宅地を離している(図3)。
図3 特別工業地区(赤線で囲った紫の区域)
工業専用地域(青)と住居用途地域(黄色,黄緑色)の間に挟んでいる(市原市HPより)
原発に重大過酷事故が発生すれば,修復不可能な環境汚染と,重大な放射線障害が起こり,住民の命と生活の破壊につながる。法定都市計画制度で対応できなければ,より詳細な規制をつくって住民の安全を確保しなければならないが,東海村ではそれがなされることはなかった。大井川県知事は,県は当事者ではない,山田村長は,広域避難計画の実効性向上を目指す,とコメントしたが,2自治体の首長は,原発立地周辺の人々をリスクに晒している当事者なのである。
立地審査指針が,立地自治体のサボタージュによって実質的に機能しなかったという問題に加え,3.11後に制定された新規制基準ではとうとう外された。既存の原発は,改めて設置変更許可を申請することが求められるが,立地審査指針を適用すれば,おそらくどこの原発も設置を許可できなくなってしまう。そのため,原子力規制委員会は新規制基準から外したのである。立地審査自体を止めるという卑劣な決定だった。都市計画から見て看過できない仕業である。
私は,これまで都市計画学会で,原発サイト周辺の開発規制が外され,開発が推し進められたことを歴史的に読み解き,周辺開発規制なしの原発立地を全国に広めてきたことの問題性を指摘してきた。しかし,都市計画関連の学会である,都市計画学会,建築学会では,原発立地と住民の安全の問題について無関心をつづけ,3.11で福島の人々が住まいと生活を奪われ今なお避難先から戻れないという現実を目の当たりにしても議論を起こすことはなかった。
この判決から,全国の立地自治体,学会関係,市民が学ぶべきことは大変多いはずだ。
* 東海村須和間につくられた規制破りの住宅団地,須和間の夕日,2019年8月16日
** 原発「安全対策工事」の名で起こっている東海村の凄まじい開発,須和間の夕日,2020年3月9日
原発「安全対策工事」の名で起こっている東海村の凄まじい開発 その2,須和間の夕日,2020年3月26日
*** <つなぐ思い 震災10年>(5)コンビナート火災 教訓消さぬ コスモ石油千葉製油所で現場指揮 市原市消防局・天野正次さん,東京新聞,2021年1月13日
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