2021年東海村長選を闘って その4 村の廃炉後未来を考える


村長,廃炉後まちづくりは「考えていない」

10月村議会で,大名美恵子村議会議員は,山田村長に,確実に訪れる東海第二原発の廃炉を見据えたまちづくりに村民参加の議論が必要と考えるがどうか,と質問した。これに対する山田村長の答弁は「考えていない」だった。

村議会議員の多数は再稼働推進派である。だから,村長は,議会で廃炉後まちづくりについて述べるなど到底できないのだろう。しかし,廃炉後まちづくりを「考えていない」と答弁するということは要するに,東海第二原発は再稼働する,と公言したということだ。

思い返せば,夏の村長選さなか,村上元村長が,再稼働反対を主張する私への支援に回り,村上氏自身が後継指名した山田村長への決別宣言をするという出来事があった。山田村長は,村上元村長のこの宣言に対して,「再稼働について,私は最初から『中立』と言っている。村上氏のように反対ありきというのにはくみしない」と,「中立」を主張してみせた(東京新聞,2021年9月7日)。

しかし,時間がたって,村上元村長に対する腹立ちも収まると,村長は,もう本心を隠すことなく,廃炉後まちづくりは「考えない」と,再稼働推進を念頭においた発言を議会で堂々述べたのである。今だけ,お金だけ,の村長なのだと得心した。

再稼働に同意しないこともある,と考えるなら,原子炉閉鎖,廃炉決定という事態に備えて,東海村が着手しないといけないことはかず限りなくある。再稼働と廃炉,2つの可能性を見据えながら,近い廃炉の準備も視野に入れる,それは村長として当然すべきことなのである。

私は,村長選で,廃炉後のまちづくりを考えなければならない,村民参加で議論を始めようと訴えた。廃炉になれば,どんなことが起こるのだろう。以下に考えてみる。


若い子育て世代の定住が少ない東海村

まずは,東海村の住民構成と動向の特徴を確認しておきたい。

図1は,東海村の人口ピラミッドである(年齢軸を横軸に置いている,男女計)*。東海村は,全国と比較して,ある年齢層で,特異な山と谷を描いている。


図 東海村の人口ピラミッドの特徴(全国との比較)


ここには掲載していないが,比較として,水戸市,ひたちなか市,福井県高浜町をみてみたが,水戸市,ひたちなか市は全国と大きな違いはない。他方,高浜町は,東海村とよく似ている。しかし,高浜町より,東海村の山と谷はより際立っている。

ここから読み取れることは,原発立地地域は特異な人口構成をもっており,なかでも東海村はその特異性がはっきりしている,ということである。

図に戻ろう。東海村の30歳代と10歳以下の子どもが,全国と比べて著しく多いのは,子育て世帯が東海村に住まいや仕事を求めてきているからだ。住まいを求めて来住しているとすれば,周辺自治体に比べて教育関係などの政策が充実しており,村のこれらの政策がこの世代を引き寄せている可能性がある。しかし,この世代は賃貸住宅に居住している人たちも多く,村への定着性が低い層である。

他方,20歳代が著しく少ないのは,他地域に就職先を求めて転出しているからだ。地域経済が沈滞しており,地元には就職先がない。多くは首都圏へ出ているのだろう。

30歳代の若い子育て世代の厚い層がそのまま村に定住すれば,以降の年齢層も全国に比べて多く描かれるはずだが,50歳代になると全国よりも少なくなる。これは,要するに,若い世代の定住がすすまない,転出が多いということだ。

以前,村役場のTさんが,東海村は子育て世帯に人気があるけど,子育てが終わったら転出すると言っていた。データがこれを証明している。


廃炉で転出がすすむ労働力人口

では,廃炉決定で地域に何が起こるか。世界の廃炉先行地域を見ると,廃炉決定による影響はとてつもなく大きい。

『原発「廃炉」地域ハンドブック』では,廃炉先行地域として,アメリカ3地域,ロシア1地域,ドイツ1地域をあげて実情を報告している。このうち,ドイツ・ルブミン村については私が担当したが,「須和間の夕日」でも概要を報告している **。

廃炉先行地域で起こっていることは共通している。原発事業者による労働者の大量解雇と地域人口の減少,自治体の税収の激減,地域経済の低迷である。アメリカ・ザイオン市でのザイオン原発からの税収推移を図2に示したが,減少状況は目を見張るばかりである ***。


図2 アメリカ・ザイオン市のザイオン原発からの税収推移


住民の流出状況を見てみよう。たとえば,1990年に閉鎖が決定されたドイツ・グライフスヴァルト原発に隣接するグライフスヴァルト市は,原発労働者の多くが住んでいた都市だが,68,597人(1988年)が,60,772人(1995年),54,236人(2000年)へと,12年の間に大きく減少した。減少率20.9%である。

東海村でもこうした事態は避けられない。東海村で起こりうることをさらに深掘り予測してみる。住民の転出について,図1の分析の成果を参照しながら推測する。

世界の廃炉先行地域では,原発の運転より廃炉に要する人員は少ないことを示している。原電でも廃炉で解雇が起こり,住民の転出がすすむだろう。転出の大きい部分はもちろん,労働力人口の年齢層である。まずは解雇された労働者とその家族。このほか定着性の低い若い子育て世代が想定される。この世代は,原発事故などの背景がない普通の状況でも転出が多い世代である。村の将来や雇用不安を抱いて,平時以上に転出がすすむだろう。

これらの層の転出がすすめば,村の経済を支える労働力人口は縮小する。これによって,人口の高齢化は大きく加速するだろう。

財政力が県内一豊かで,子育て世帯に人気の住宅地という,東海村が原子力によって獲得できていた,誇らしいこれまでの状況は,廃炉決定を契機に大きく変容するだろう。


東海村商工会の再稼働議論を促す請願

東海村には,原電と直接間接の取引関係をもつ商工業者は多い。東海村商工会は,2021年,6月村議会に,再稼働と早期の避難計画策定を求める請願を提出した。

請願者は,首相,茨城県知事に意見書提出を求める請願の趣旨について以下のように説明した(村議会,6月11日)。


「東海村の商工業者は60年以上にわたり,村内の原子力関連企業と共存共生発展してきた。震災で運転停止以降,売上減少の厳しい状況が続いていたが,新規制基準適合性審査に合格後の工事開始で,工事量が増加し,流入人口拡大に伴い,商工業者の一部では停止前以上の活況を得ている。今後村内経済全体に良好な状況波及が期待できる。しかし,工事が終われば工事業の大幅減少により回復傾向にあった商工業者の経営状況も工事前に戻り厳しくなることが予想される。
村民の中に意見が様々あることは知っているが,事業者は事業継続の上で先々の見通しと雇用の確保が重要。事業継承に大きく影響することなので,村内商工業者が自立した存在として健全な経営維持と発展のため,村内経済を見据えた,東海第二の再稼働の方向性について議論を進めていただきたい」


請願者の趣旨説明は,再稼働対策工事によって商工業者の一部で活況を得ている,しかし工事が終われば元に戻ってしまう,だから,再稼働の議論を進めてほしい,というものである。

工事で活況を得ているのは業者の一部だと認めつつ,「商工業者の健全な経営維持」「村内経済を見据えた議論」で再稼働の議論をすすめてほしいという,この説明の展開には論理の整合性がまったくない。


廃炉は地元商工業に大きな影響をもたらすのか

原発から地元事業者への経済的影響は一部に限られるにもかかわらず,国,県への再稼働の訴えの理由になるのか。この意見書には,東海村商工業会の理事となり,商工業会を再稼働へと誘導させたい原電が深くかかわっているのだろう。

実際のところ,廃炉による地元商工業者への影響はどの程度のものになるだろうか。これに関しては,原発の長期停止による影響に関する福井県敦賀市と美浜町での調査結果があり,これが参考になる ****。

この調査の結果は,上記の請願者の説明とまったく同じものである。すなわち,ごく一部の事業者に大きな影響が出ているが,大多数の事業者への影響は小さいという結果だった。原発の稼働で地元企業が参加できる領域はわずかで,しかも特定の業種に限られているということである。

具体的には,定期検査時の保守点検業務の労務サービスが,地元企業への支出額の92%を占め,これは総支出額のわずか16%である。支出額の大きいのが製造関係だが,これは地元外の大手メーカーが占めている。

結論は,「地元企業が参入できる領域は狭く,地元外企業と比べて,原子力産業と地元産業との関連は極めて薄い」という。すなわち,原発が廃止されても,地元経済に及ぼす影響は局所的なのである。

請願者の説明は,この調査結果と一致している。東海村でも,廃炉の影響は一部の商工業者に限定される,ということだ。それでもなお,村の経済を見据えて再稼働をと主張するのなら,長期停止の影響を受けてきたのは,どの業種,どの事業者なのか,それぞれどの程度の影響を受けるのか,調査し明らかにすべきである。その結果を提示してもらいたい。

原電に誘導されているようでは自立ある組織とはいえない。再稼働で,村の商工業が潤うというような主張に根拠はない。原発依存から脱却できず,廃炉決定後の村の商工業のあり方について検討さえできない体質はむしろ,村の発展にとってきわめて危険というべきである。




* 図は,wikipediaの項目「東海村」から引用した。誰の作成か,縦軸の単位は何かとか不明な部分も多く,学術論文なら使えない図だが,ここでは速報性を重視して利用している。図中の解釈文は,筆者が入れたもの。

**「ドイツ・ルブミンから廃炉後の地域の描き方を考える」,須和間の夕日,2019年5月31日

*** 尾松 亮 編著,乾 康代ほか著『原発「廃炉」地域ハンドブック』,東洋書店新社,2021年

**** 原子力市民委員会『原発立地地域から原発ゼロへの転換』,2017年

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