わが家のエネルギー消費2023


2020年,新型コロナウィルス感染症が世界を襲った。コロナの拡大を止めるために,世界各地の都市で,人々の外出や行動を制限するロックダウンが敢行され,産業活動も抑制された。

その結果,予期せぬ成果が短期間でもたらされた。大気汚染や水質汚濁の劇的な改善が世界のあちこちから報告され,地球温暖化をもたらす二酸化炭素の排出量が抑制されたのである *。テレワークが広がり,都市から田舎へ転居して家族と過ごしながら仕事するという新しいライフスタイルが定着するかのような予想図も描かれた。

しかし,人間的な労働と家族生活,清浄で静穏な都市環境が取り戻せるとの期待は,すぐに,そして見事に外れた。

すなわち,まもなく,産業は起動し,人々の生活も元に戻った。ただ元に戻っただけでなく,さらに多くエネルギーを消費するようになったのである。その結果,2023年の世界の温室効果ガス排出量は過去最高になり,世界平均気温も過去最高になることが確実視されている。

世界平均気温は,工業化前と比べて2011~2020年で1.09℃上昇した。今後も,この調子で温室効果ガス濃度が上昇しつづければ,今世紀末までに3.3〜5.7℃上昇する(SSPD-8.5)と予測されている(IPCC第6次評価報告書)。

ところが,2023年のCOP28は,期待された成果をあげることができなかった。各国の利害を調整できず,化石燃料の段階的廃止は盛り込まれなかったのである。2050年にネットゼロを達成するべく化石燃料からエネルギー転換をしていくという合意がなされた。

日本は,COP21で,家庭部門では,2030 年度には温暖効果ガス約 40%削減(2013 年度比)することを目標にかかげた。しかし,この間もエネルギー消費は増加しつづけ,温暖効果ガス排出も増加している。

家庭部門ですすめられている政府の住宅の省エネ策は,新築住宅が中心である。2025年4月からは,すべての新築住宅に省エネ基準適合が義務づけられ,東京都ではこれに加えて,大手ハウスメーカーが供給する住宅という限定つきだが,新築住宅への太陽光パネル設置が義務づけられる。

しかし,住宅の圧倒的多数を占めるのは既存住宅である。家庭部門における大幅なエネルギー消費削減は,既存住宅の省エネ化こそ重要だが,既存住宅の省エネリフォーム(断熱性の向上,高効率設備の導入)はすすんでいない。

既存住宅はどこまで省エネできるか。日々の生活から見ていこうと,筆者は,過去4年間,既存住宅である自宅のエネルギー消費を記録,分析してきた **, ***, ****, *****, ******。そこから見えてきたことがある。

一つは,4年前,省エネ目標値をたて,家庭生活での行動を省エネ型に転換すれば,毎年,消費量は減らせると予想したが,それは甘い予想だったということである。エネルギー消費量は単調な左肩下がりということにはならなかったのである。年によって増減し,増加が大きい年もあった。

なぜ,増減が起こるのか。なぜ,大きく増える年もあるのか。

1年間の世帯エネルギー消費量は,家族が自宅で過ごす時間とエネルギ消費機器の利用頻度と時間,旅行や外食などの頻度・長さ,人を自宅に招いて大勢ですごす時間・頻度などと関係している。世帯エネルギー消費量は,努力次第で漸次減らせていけるという,単純な図式を描くことができないのである。

二つ目に,とは言っても,消費量を減らせていないというわけでもない。10年程度の長いスパンで見れば概ね削減できているということもわかった。

三つ目に,それでも,せいぜい20%程度削減できたに過ぎない。家庭部門における政府目標の40%削減(2030年/2013 年度比)は,個々の世帯,特に既存住宅の世帯ではとうてい到達できないということが明白になった。


わが家のエネルギー消費推移を見ていきたい。

筆者の家は,水戸市郊外に建つ1998年築の木造2階建て。延床面積132㎡,外壁,屋根,床に50mmの外断熱,窓は樹脂サッシ,複層ガラスである。電気で照明・換気・冷暖房・その他電気機器を動かし,都市ガスで調理,灯油で給湯,暖房している。家族は大人2人である。

月別電気消費量の推移を見る(図1)。消費量のピークは冬で,通常1月(たまに2月)に訪れる。近年のピークは,2014年までのそれと比べると,明らかに低くなった。電気ストーブの使用をやめたことが大きい。ピークが小さくなっていた2016年の冬以降で,2022年1月に大きなピークが現れたのは,再び電気ストーブを使ったからである。

図1 月別電気消費量の推移(kWh)


年間消費量で見ると(図2),当然だが,冬の消費量削減が,そのまま年間消費量の削減につながっていることがわかる。もっとも消費量が多かった2012年と比較すると,2023年は22.6%減少した。

図2 年間電気消費量の推移(kWh)


灯油の消費量(給湯,暖房)は,記録のもっとも古い2017年と比べて2023年は19.6%減,過去7年間でピークだった2019年と比べて28.6%減だった(図3)

図3 灯油消費量の推移(ℓ)


都市ガス消費量(調理)は,記録のある2009年以来,もっとも消費量が大きかった2020年との比較では,23.2%減だったが,全体として減っているわけではない(図4)。調理に使うエネルギー消費を減らすことは難しい。

図4 都市ガス消費量の推移(㎥)


電気,灯油,都市ガスの消費量を原油に換算,合計し,その年別推移を見た(図5)。1.3〜1.5kℓ/年の範囲で推移している。2023年の構成比は,電気71.5%,灯油24.8%,都市ガス3.6%だった。

図5 原油換算消費量の推移(kℓ)


二酸化炭素排出量に換算した(図6)。2.2〜2.6 t/年の範囲で推移している。

図6 二酸化炭素排出量の推移(t)


エネルギー消費料金を見ていく。

ロシアのウクライナ侵攻,コロナ感染症拡大の影響で,エネルギー資源が高騰している。国は,これに対応して,電気,ガス,灯油の事業者に2023年1月から補助金を出している。

消費者に直接給付しているのではないので,事業者への補助金が,消費者の急激な負担増を抑えるのにどれほど役立っているだろうか。わが家の毎月の領収書記録から見えてきたのは,補助金は消費者に限定的にしか回っていない,あるいはまったく回っていない,ということである。

筆者は,新電力会社と契約している。図7は,電気料金(消費税を含む)を単純に消費量で割った金額を単位料金とし,その推移を見たものである。2023年の単位料金は,2月にピークをつくり,その後も下がることなく,4月まで過去最高水準のままだった。ようやく下がり始めたのは,消費量が大きく下がった5月だった。

電力会社は,エネルギー資源の価格高騰に耐えかねて,22年9月に値上げをしている。その4ヶ月後から,会社は国の補助金を受けたわけだが,わが家は,単位料金で見る限り,5月まで,事業者が受けた補助金が消費者に分配されることはなかったのである。

図7 電気単位料金の推移(円/kWh)


灯油の単位料金の推移を見る(図8)。2020年後半は底値の75円が続いたが,2021年以降,急上昇し,2022年以降,高止まりしている。75円から120円へ,60.0%増加した。灯油料金では,補助金は消費者にはまったく分配されていないことがわかる。

筆者は,地元の零細業者から灯油を購入している。業者が受けた補助金は,消費者に分配できるほどの金額ではないということだろうか。

図8 灯油単位料金の推移(円/ℓ)


図9は,都市ガス料金(消費税含)の単位料金(円/㎥)である。記録が残る2009年以来,450円前後を推移しながら,ときどき600円を超えた。2023年は少し上昇したように見える。

図9 都市ガス単位料金の推移(円/㎥)


実際に上昇したのかどうかを確認するために,単純化して,単位料金の年平均を出してみたら,確かに増加していた(図10)。2023年の増加率(対2020年比)は23.7%だった。都市ガスも灯油と同様,補助金は消費者へはまったく配分されていないことがよくわかる。

図10 都市ガスの年平均単位料金の推移(円/㎥)


以上をまとめると,エネルギー消費量は,電気,灯油では,10年ほどのスパンで見れば最大で20%程度削減できていると言えるが,最近7年間で見た世帯消費量に減少傾向は見えない。頭打ちということだろうか。

消費料金は,2023年1月から,国の補助金が出ているというものの消費者への直接補助ではないので,エネルギー料金高騰の緩和は,ごく限定的である。電気は,2023年5月から下がり始めたが,灯油と都市ガスは高騰したまま,いっさい補助金の恩恵は受けていないということがはっきりした。




* 「水が澄み、山が見えた 新型コロナで『環境は自分の手で改善できる』を学んだ私たち」,朝日新聞GLOBE,2020年8月6日

**「わが家のエネルギー消費量削減 2020年の目標」,2020年1月10日

***「コロナパンデミックとエネルギー消費」,2020年11月30日

****「わが家のエネルギー消費2020」,2021年1月11日

*****「わが家のエネルギー消費2021と今年の目標」,2022年1月11日

******「わが家のエネルギー消費2022」,2023年1月15日

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